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2017/01/12

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原始時代の漫画に出てくる「石のお金」って、いったい幾らなの? ~ヤップ島で気づく、貨幣の本質的価値~

category - カレー&スパイス・ミクロネシア
2017/ 01/ 12
                 
みなさんも考えたことがあるかもしれません。

原始時代の漫画に出てくるあの「石のお金」って、いったい幾らなの?

確かに、この石が100円で、この石が1000円で、ってな取り決めがある感じでもなし、
そもそもなんであんなにデカいの?不便じゃない?なんて考えると気になってしょうがないのです。

・・・その答えを探しに向かったのは太平洋に浮かぶヤップ島。
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日本からはグアムかパラオ経由で、一週間に一回飛行機の便があります。

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空港へと降り立つと、いきなり現れた「石のお金」。
ヤップでは「ライ」と呼ばれる石貨です。

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国際空港と言えど、建物はがコテージ風の一棟のみ。
アメリカなんかの入国審査が嘘のようなシンプルさです。

このヤップ島、第一次世界大戦まではドイツ領、その後日本統治領となり、第二次世界大戦後はアメリカ統治に。
現在は、ミクロネシア連邦に属し、ヤップ州の州都コロニアが置かれています。

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入国審査の風景。
左奥の若い女性に注目してください。

ええ。
上半身裸です。

ヤップの伝統的な服装では、女性も上半身裸。
なのに逆に脚を見せることは恥ずかしいとのことで、ふくらはぎまである長い蓑状のスカートをつけています。

日本の今どき女子とは真逆ですね。

所変われば常識も変わるのです。

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青い海と緑、自然豊かなヤップでは、あらゆる土地が私有地。
一族の土地に根ざして何代も暮らすのです。

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名産品はBEETLE NUTS。
いわゆる「ビンロウ」です。

実を歯で齧り、齧った割れ目に珊瑚の粉をかけると、シュワーッと化学反応が起こります。
それをキンマの葉で包み、口に含んでクチャクチャ噛むのですが(飲み込みはしません)、
噛んでいるうち、アタマがフワーッとしてきてちょいとトリップできるんです。
原始的な噛み煙草・・・というより、つまりは原始麻薬でございますね。
(ちなみに、日本の麻薬取締法には引っかかりませんが、生の果実なので検疫にはひっかかります)

特にヤップ産のBEETLE NUTSは質が良くてキマるらしく、
一人当たりスーツケース2つにこれを一杯詰め込んでグアムへ運び出す若者たちも。

ちなみにヤップのあちこちには赤い血痕のようなものがあるのですが、
これはBEETLE NUTSを噛んで真っ赤に染まった唾液を吐きだしたもの。

また、ヤップの人々はフガフガと会話の滑舌が悪い方が多いのですが、
よく見ればBEETLE NUTSの酸で歯が解けてほとんどないんですね・・・・
現地のガイドさんに聞けば彼は5歳の頃からずっとBEETLE NUTSを噛み続けていて、
今も一日100個は噛むよと、フガフガ声で答えてくれました。

実に凄まじいですね。

このように、われわれの世界とはまったく常識の異なるこの島に残っている石貨。
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実際は今では米ドルが流通してはいるものの、果たしてこの石貨、それぞれの価値はどうやって決まっているんでしょう???
現地の方に訊いてみたら、驚くべき答えが返ってきました。

曰く、

「石貨の価値は、それ自体が持っているストーリーと、プレゼン力で決まる。」

これには衝撃を受けました。
貨幣本来の価値・・・今は国家が価値を規定し、市民はそれを盲信している貨幣、その本質的価値に触れたような気がしたのです。

ヤップとその周辺の数多くの島々は、古来カヌーによって交易をしていました。

そして、石貨をつくる大理石はヤップ周辺では採れず、はるか彼方のパラオで切り出し、カヌーで運んできたのです。

大きく重い石貨を乗せたカヌーによる大航海には危険が伴います。
荒波に呑まれ犠牲になる者もたくさんいたでしょう。

そうしてヤップにやってきた石貨。
「これだけ大きなお金だから幾度も海に沈みかけた。しかも洋上で舟が嵐に遭い3人が犠牲に・・・
だが、彼らは命に代えてこのお金を守り通した。だから今ここに、このお金があるのだ。」
今そこにあるお金がいかに価値があるものか、ストーリーを語るプレゼンター。
「・・・なるほど、それは価値あるものだ。ならば牛5頭と交換しよう」
となるのです。

つまり、石貨の価値とは、希少性の価値。そして労力の価値なのです。

私はフィリップ・K・ディックの小説に出てきた1シーンを思い出しました。
新品同様のZIPPOと、凹みがあり傷んだZIPPOどちらが価値あるものか?という問い。

実は、片方のZIPPOの凹みは、ケネディ大統領が暗殺されたとき胸ポケットでついた凹みなのだと。

ちなみに、19世紀の終わりごろヤップでは、アメリカの商人デヴィッド・オキーフが、
立派な帆船を用いて、パラオから大量の巨大石貨をヤップに持ち込みぼろ儲けをし始めたそう。
異文化のなかで守られていた共通了解事項を踏みにじり利権を獲得するという、いかにも西洋的なやりかたではあります。

が、後になって、
オキーフの石貨は、「物質的には」巨大で立派だが手間と労力がかかっておらず、
ストーリー的価値がないことに皆が気付いたのです。

今ではオキーフによる石貨は、カヌーで運ばれた石貨よりも「価値がない」ものとされています。

私たちが暮らす社会に目を向ければ・・・どうでしょう。

100円玉の、本質的価値とは?誰がきめ、だれが見定めるのでしょう。

100年後、200年後残る価値とは、何なのでしょう。

我々の常識を超えた異文化との接触は、当たり前のように感じ麻痺していた、大切な感覚を思い出させてくれます。


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