雨が降ったあと、
ブロック塀やコンクリートの壁に、
カタツムリやナメクジがいっぱい出てきているのを見たことがあると思います。
あれ、何故だか知っていますか?
実はあれ・・・
コンクリートを食べているんです。
カタツムリは巻き貝の仲間です。
巻貝の殻は主に炭酸カルシウム(有機石灰)でできています。
成長するのにあわせ、貝殻の口のところに石灰質を塗り足しながら
殻を大きくしていくのです。
ミネラルが豊富に溶け込んだ海の中であれば殻の材料に困ることは無いのですが、
川や池などの淡水ではそれほどカルシウムが摂取できないため、
淡水の貝(タニシやカワニナなど)の殻は海の貝に比べ薄くもろいものになっています。
ほら、海岸に打ち上げられた貝殻は朽ちて真っ白になっていたりしますよね。
まさにあれが炭酸カルシウムの色です。
タニシやカワニナの殻は真っ白にはなりません。

ましてや果敢にも地上へと進出したカタツムリ。
かれらはもちろん炭酸カルシウムに餓えています。
なけなしの炭酸カルシウムを得る為に他のカタツムリの死骸を舐めたりもします。
風雨にさらされたコンクリートからは炭酸カルシウムが染み出します。
そう、カタツムリはこの濡れたコンクリートから染み出す炭酸カルシウムを摂食していたのです。

ちなみに歯舌というおろし金のような口で削り取るように食べるため、
カリカリと小さな音が聞こえることもあります。
じゃあ、ナメクジは?といえば、
彼らも殻が退化しているとはいえ巻貝の仲間。
生理的に炭酸カルシウムを欲しています。
むしろ、炭酸カルシウムに餓えた結果、
炭酸カルシウムを多く消費する貝殻を捨てたのかもしれません。
カタツムリの不思議は他にもあります。
カタツムリには雌雄がありません。
雌雄同体といわれ、要は二匹が揃えば繁殖が可能。
ゆっくり這うしか移動手段の無いカタツムリが、
効率的に配偶者と出会うための進化だといわれています。
カタツムリの交尾は神秘的で、
二匹が出会うと、頬から「恋矢」という棘のようなものが飛び出して相手をつつきます。
相手も「恋矢」を出してつつき返したら、カップルの誕生となります。
二匹が体をあわせ、らせん状にうねるようなダンスをはじめるとそれが交尾。
なんともドラマティックな光景です。
ちなみに「恋矢」の成分も、やはり炭酸カルシウム。
炭酸カルシウムがなければ、子孫を残すこともできないわけですね。
さて、カタツムリの不思議はまだまだ続きます。
今回写真でとり上げているこのカタツムリ、
普通の巻貝と何か違うことに気づきませんか?

実は貝殻の巻き方が普通と逆なのです。
巻貝の殻は通常中心から時計回り、つまり右回りに成長していきます。
カタツムリも同様。
しかし、このカタツムリはその逆、左巻きに成長していることがわかります。
この、ちょっと変わったカタツムリ、その名も・・・

ヒダリマキマイマイ
学名:Euhadra quaesita
殻幅:3~4cm
原産地:本州(関東以北)、伊豆諸島、八丈島
大型でもあり、関東では個体数も多いことから案外よく見ることのできるカタツムリ。
カタツムリは移動が遅く行動範囲も限られているため、種の分化が非常に早い生き物です。
現に日本だけでも300種ほどのカタツムリが知られているようです。
普通のカタツムリでも時に、突然変異として左巻きの個体が現れることがあるのですが、
通常そういった個体は子孫を残すことができません。
なぜか?
実は左巻きのカタツムリは、殻だけでなく体の作り全てが左右逆になっているのです。
交尾に用いる交接器までも左右逆になっているため、
上で紹介したようなドラマティックな交尾ができないのです・・・。
回転が逆なのでダンスパートナーになれないわけですね。
ですので、
遠い昔、いつかどこかで、
いままで誰にも相手にされなかった左巻きの二個体が、
偶然かつ運命的な出会いをし、
「恋矢」でつつきあい、
彼らふたりにしか踊れない逆周りのダンスを踊った。
やがて生まれたふたりの子供は、
左巻きの血を宿し、
ついにヒダリマキマイマイという新しい種へと分化していった。
およそそのように考えられているのです。
雨上がりの日、
コンクリートに群がるカタツムリを見つけたら、
貝殻の向きに注意してみてください。
もし、左巻きにまかれた貝殻を見つけたなら、
それは遠い昔、運命的な出会いを果たしたふたりの、
遠い遠い子孫にあたるカタツムリなのですよ。
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